経営学研究科 教授 内田 浩史
(ケルン大学Anna L. SOBIECH博士との共同研究)
温室効果ガスの排出削減や気候変動対策が求められる中、環境問題を解決する技術やインフラ投資に必要な資金を提供するグリーンファイナンスの重要性が増しており、中でも中小企業に対する貸出であるグリーンローンの促進は重要な政策課題です。本研究では、政府系金融機関のデータを用い、再生可能エネルギー(主に太陽光発電)事業の資金を融資するグリーンローン(公的環境融資)の利用中小企業(以下「利用者」)の特徴と利用後のパフォーマンスを分析しました。分析対象期間は2012年から2018年で、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取)制度の変更の影響も考慮しました。特に、初期のFIT制度は非常に有利な条件を保証したため多くの参入を招いた反面、未操業や倒産など高リスク企業も多かったため、利用者がどの程度こうした企業なのかを分析しました。
分析の結果、分析対象企業(全借入企業)数が緩やかに減少する中、グリーンローン利用者は初期FIT制度の下で参入が急増した時期に増加し、改革で条件が悪化した時期に急減しています(図1)。また利用企業は財務の健全性が高く、図2のように利用者(左側)の格付は比較対象(右側)より、特に分析対象期間の初値に高く(値が低く)なっています。利用後の財務パフォーマンスについても、収益性は高く、規模は大きく、有形資産が多く、赤字や債務不履行に陥りにくいことが分かりました。これらの結果は、政府系金融機関の審査が高リスク企業を排除する形で働き、他政策(FIT制度)によって作り出された有利な投資条件の問題を補った可能性を示唆しています。
元論文ページ:https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/23100009.html
論文ノンテクニカルサマリーページ:https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/23e072.html
教員ホームページ:https://www.b.kobe-u.ac.jp/~uchida/