私は2020年度から熊本大学の環境報告書「えこあくと」編集専門委員会の委員長を担当しています。他大学の環境報告書を参考に誌面の内容や構成を練ることもあり、このたび「神戸大学環境報告書2024」とご縁に恵まれましたことを嬉しく思う次第です。冊子を拝読した感想を、ざっくばらんに書き綴っていければと思います。
始めに、藤澤正人学長のメッセージ(学長メッセージ)から伝わるのは、神戸大学のカーボンニュートラル(CN)への積極的な関与と実効性を伴う具体的取組を推進する強い気持ちです。神戸大学は「カーボンニュートラルに貢献する大学等コアリション」に参画してWGの幹事機関に就いたことや、学内のSDGs推進室で「カーボンニュートラル推進本部」を設け、2024年だけで2回のシンポジウムと1回の現地見学会を行ったことが大学ホームページで紹介されています。「神戸大学の研究リソースを活用した地域脱炭素へのアプローチ」と題したインタビュー記事1)では、地元企業や学生と協働でCN社会実現の向けた有用情報の入手や、学生を含む現地視察の様子が紹介されています。藤澤学長のリーダーシップのもと、時流をとらえ、多くの教職員と学生がCNの課題に向き合い、それぞれ役割を認識して未来への責任を引き受ける覚悟が伺えました。うちはこの方針ですが熊本大学はどうしますか、と正面切って問われたような気持ちになり背筋が伸びました。
人間が地球の資源と環境を持続的に利活用するには様々な人為負荷を減らす必要があり、具体的な施策の提案?実行には俯瞰的かつ多面的な視点が求められます。世の中の多くは作用と反作用の両面があり、とりわけSDGsやCN課題に対峙するには、正だけでなく負の部分を把握?勘案するバランス感覚が必須です。その点、環境保全センターの内野隆司センター長は、近年急速に発展を遂げている生成AIを例に、利点がある一方でシステム構築の過程で発生する半導体の莫大なエネルギー消費が、脱炭素化の政府方針に影響を与える可能性に言及しています(環境保全推進センター センター長メッセージ)。最近、熊本では国内外の半導体企業の誘致が進み、その経済効果を期待する声は大きいですが、電力消費?脱炭素や水資源保全の面から想起される様々な課題に向き合い行動することの重要性を認識させていただきました。
また、人間発達環境学研究科の井上真理先生による「衣と環境問題」では、プラスチック繊維と天然繊維のどちらが環境にやさしいか、を問われています(衣と環境問題)。プラスチックごみやマイクロプラスチックによる海洋汚染に対する社会的関心が高まる中、環境中で分解しやすい「天然繊維」の回答が多数派と思いますが、綿花栽培には農薬等の高環境負荷の人工化学物質を使用し土壌を汚染すること、現場の労働者や地域住民の健康被害を招いていること、膨大な水が必要であるといった負の面に言及した上で最適解を提示されています。さらに、工学研究科の中山恵介先生は、CNの定義とその必要性に関する背景を簡潔かつ定量的にわかりやすく説明され、陸域の水生植物を利用する「Freshwater Carbon」に関するご自身の取り組みを紹介されています(カーボンニュートラルとFreshwater Carbon)。神戸大学には、CN課題に対してハイレベルで多様な取り組みを重層的に展開するスタッフが多数いらっしゃり、それらが有機的に連携してアウトプットの最大化を図る力強さを感じます。
さて、SDGsやCNs課題への取り組みを一過性ではなく、学生等に世代を超えてどのように繫げば良いのでしょうか。実は、熊本大学の環境報告書2)はHPで誰でもDLできるものの、正直なところ学生の認知度が高いとは言えません。10分程度のショート動画に慣れた若い世代にとって数10頁に及ぶ「読み物」は、もはや「刺さる媒体」ではなのかも知れません。このため、次年度から環境報告書を短く数ページにまとめたダイジェスト版の作成を予定しています。また、教養の授業等での紹介と課題の提示?提出や、動画配信およびSNS等を活用した発信力の強化を検討しており、環境報告書が若い世代に読まれ有効利用される環境づくりに注力したいと思っています。
紙面の都合上ご紹介できなかったものの、神戸大学環境報告書2024にはCN以外に参考になる内容が多数含まれております。本誌の作成に携われた全ての教職員および関係の皆さまに深く敬意を表します。
1)20230908_大学等コアリション_インタビュー_神戸大学_v7-1.pdf (uccn2050.jp).
2)https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/jouhoukoukai/eco_act