経営学研究科 准教授 中村 絵理
近年、持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まっています。多くの企業がSDGsに関心のある消費者に自社の製品やサービスを積極的に選んでもらおうとSDGsへの取り組みをアピールしています。環境にやさしい素材を使っていること、フェアトレードによって取引された商品であること、貧困や暴力などの問題に売り上げの一部を寄付していることなど、SDGsに取り組んでいることで企業イメージのアップにつながり、そのような企業の製品は消費者から選ばれやすくなります。ですが、SDGsへの取り組みは、本当に消費者が製品やサービスを選ぶときにプラスになっているのでしょうか?「SDGsへの取り組みは素晴らしいことだが、そのためにお金を払うかどうかは別問題」、「SDGsに含まれる目標のすべてに関心があるわけではないから、必ずしもすべての取り組みを評価しているわけではない」という意見もあることに、納得する人は多いかもしれません。そうすると、SDGsに取り組む企業は、自社の利益につながらない活動にボランティアで費用をかけていることになります。企業の資源には限りがあり、コストカットへの圧力が増してきている昨今の経営状況で、自社利益につながらない活動にお金をかける余裕はなくなってきています。企業がSDGsへの取り組みを持続的に行っていくためにも、それぞれの活動が本当に消費者の購買行動に影響しているかどうかは検証されるべきでしょう。
私たちの研究では、日本?アメリカ?ドイツという三か国の消費者アンケートを通したデータ分析で、すべてのSDGsへの取り組みが消費者の購買を促進するわけではなく、また、SDGsへの取り組みそのものが消費者の購買時の意思決定に与える影響はあまり強くはないことが明らかになっています。消費者の購買行動に特に影響するSDGは、持続可能な消費と生産に関するSDG12と気候変動に関するSDG13です。一方、多くの企業が取り組んでいる働きがいと経済成長に関するSDG8、そして産業と技術基盤に関するSDG9の影響は、そこまで顕著ではありません。また、これらの影響は、冷蔵庫など十年以上にわたって使用する長期財、スニーカーなど数年を通して使用する中期財、サンドイッチなど日常的に消費する短期財でかなり異なることがわかっています。SDGsへの取り組みが消費者に与える影響はまだ確立しているとは言い難く、継続的に研究を続けていく必要があります。