環境問題を解決するためには、最適な環境政策を行う必要があります。しかし、この最適な環境政策とはどのようなものでしょうか。温室効果ガスなどを引き起こすCO2排出の問題を例に考えてみましょう。温室効果ガスを削減するためには、このCO2の排出を抑制しなければなりません。一方、CO2排出は自動車利用によるガソリン消費など私たちの生活に必要な活動に起因しています。では、どの程度のCO2の削減が適正と言えるのでしょうか。また、その適正な水準が解ったとして、どのようにこのCO2の削減を実行すれば良いのでしょうか。これが、最初に書いた“最適な環境政策”となります。私たちの研究グループでは、経済学、工学の知識を援用して、これらの最適な環境政策を検証する分析を行っています。具体的には、コンピュータシミュレーションを用いて、私たちの経済活動を詳細に再現し、ある環境政策が実施された場合を予測することで、その社会的経済的影響を分析することを試みています。
例えば、CO2削減のために、新規にガソリン税を導入したとしましょう(仮に1,500円/1ℓとします)。すると人々は、自動車利用を控え、バスや地下鉄、鉄道など公共交通機関を利用するようになるでしょう。また、外出を控えるかもしれません。また、公共交通機関が充実していない地方部ではその影響は都市部と比較してより深刻であることが予想されます。さらに、経済面を考えてみましょう。当然、物の値段(物価)も上昇するでしょう。さらに、製造における物流面を考えると、これまで地方部で立地していた工場では、ガソリン税の増税による物流コストの上昇により、より都市部に近い場所に立地を変更するかもしれません。
このように、ガソリン税の増税という政策を考えてみても、日本全体に均一に影響が及ぶのではなく、都市部と地方部では極端に影響の出方が違ってきます。このような違いを定量的に分析するのが私たちの役目です。下図はシミュレーション結果の一部ですが、ガソリン税増税による被害を金銭換算したものを示しています。左が総額、右が人口一人当たりの数字です。結果から明確なように、都市圏以外での被害が深刻であることが分かります。我々はこのような分析を通じて、日本国民全体にとって衡平で効率的な環境政策の提案を目指しています。
- この活動は環境省第II期「環境経済の政策研究」の助成を受け実施されたもので、
詳しくは、 http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/ をご覧ください。
環境税導入による経済的損失の分布