私は、平成25年度後期から大学院保健学研究科学生向けの講義として「環境保健学特講」を英語で開講しています。平成25年度、26年度とも、国際協力研究科からも若干名が選択しました。
地球規模の気候変動などが影響して自然災害が増加するとともに、グローバリゼーションの進展に伴って社会的格差も増大しつつある現代において、人類の健康と生存を確保するためには、公衆衛生学の考え方が欠かせません。残念ながら日本においては医学部の中のマイナー科目の1つと見なされることが多い公衆衛生学は,海外では医学と並び立つ専門領域で、公衆衛生学修士(MPH)の専門性は高く評価されています。日本でもMPHを取得できる大学が増えてきましたが、まだ15校もありませんし、とくに公衆衛生学のすべての科目を英語で受講できるコースは筑波大学と長崎大学にしかありません。環境保健学は米国公衆衛生学教育協会が定める5つのコア科目の1つなので、将来、神戸大学でもMPHが取得できるコースを開設することを視野に入れ、戦略的に開講したものです。
世界標準の環境保健学を講義するため、Frumkin H [Ed.] (2010) Environmental Health: From Global to Local, 2nd Ed. Jossey-Bass, John Wiley and Sons.という教科書を使って、環境保健学のフレームワークから始まり、生態学と環境保健学、毒性学、環境の産業衛生への影響、遺伝と環境保健、環境的正義論といったパラダイムの説明に続いて、具体的な環境問題と健康影響として、人口圧、気候変動、水と健康、廃棄物問題、食品の安全性、自然災害の健康影響といったトピックについて概説しました。昨年度はIPCCの第5次報告書(AR5)が発表されたこともあり、気候変動についてはさまざまな側面からの研究をタイムリーに紹介することができました。
「環境保健学特講」の詳細は http://minato.sip21c.org/envhlth-special/ をご覧いただければ幸いです。講義で配付した資料のうち、私が作成したものはすべてダウンロードできますし、国内外の参考情報も紹介してあり、随時アップデートしています。卒業生、とくに留学生が帰国後に環境保健学分野の最新の情報を学び直したくなったときにも、このwebサイトを参照すれば良いわけです。今後も、いままで以上にコンテンツを充実させたいと考えています。