本書は、2019年1月に刊行した『金融論<第2版>』の改訂版です。今回の改訂では、2019年から2021年に金融の世界で起こった重要な事象についての解説を追加しました。
本書では、金融論の扱うべき領域を、日本銀行が担当するマクロ金融政策と、金融庁が担当する金融システムとに分けています。マクロ金融政策の課題は、日本経済をデフレから脱却させて、いかに成長軌道に乗せることでした。その目標を実現するために、日本銀行は、物価上昇率2%をターゲットにして、大胆な金融緩和政策を実施してきました。第2版を執筆していた2018年8月には消費者物価指数上昇率は1.3%まで上がってきており、日本銀行は「消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられる」(「経済?物価情勢の展望」2018年10月)と前向きに評価していました。
しかし、2020年3月頃からコロナ感染症の影響が広がっていき、日本経済は経験したことのないような状況に直面しました。2020年4月には、日本銀行は、「わが国の経済?物価情勢を展望すると、経済は、当面、内外における沙龙国际娱乐_澳门金沙投注-官网感染症の拡大の影響から厳しい状態が続くとみられる。???消費者物価は、???弱含むとみられる。???先行きについては、???不透明感がきわめて強い。」(「経済?物価情勢の展望」2020年4月)と、将来展望を大幅に引き下げました。同時に、上限を設けずに必要な金額の長期国債の買い入れを行うことを決定したり、新型コロナ対応の資金繰りを支援するための特別プログラムを開始したり、(国際的にドル資金への需要が強まり)日本の金融機関がドル資金を調達することが難しくなったことに対応して米ドル資金供給オペなどを実施しました。また、コロナ感染症のために大規模な補正予算が組まれ、多額の国債が発行されましたが、日本銀行の金融緩和が続けられたことで、金利は低いままでした。
コロナ禍によって、不良債権が膨らめば、金融システムにも悪影響が出ます。政府は前例のない給付金や、特別な融資プログラムを実施して、企業の資金繰りをつけることに成功しました。同様の取組は世界中で実施され、世界の金融当局で構成される金融安定理事会(FSB)は、「今までのところ、金融システムは、G20改革によって支えられた高い回復力(レジリエンス)と、迅速で断固とした大胆な国際的な政策対応により、パンデミックを乗り切った」と総評しています。(FSB “Lessons Learnt from the COVID-19 Pandemic from a Financial Stability Perspective: Interim Report” 2021年7月)。
2008年のグローバル金融危機では、金融システムの脆弱性が世界経済を混乱に陥れましたが、その後の金融システムを強固にする政策(自己資本比率規制の強化など)のおかげで、コロナ禍では、影響を軽減する役割を果たしているというわけです。グローバル金融危機の経験を生かした政策努力が功を奏しているといえます。今回の危機の経験についてもこれから様々な形で金融システムの頑健性を高めるために活用されるはずです。
コロナ禍を別にすれば、この数年でもっとも大きく進展したのがSDGsへの金融面からの対応です。2020年10月に、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを表明しましたが、気候変動リスクへの対応は官民を挙げて急速に進み始めました。日本銀行も気候変動リスクに対する支援制度を導入しました。2019年の第2版で既にこのテーマを加えましたが、今回の改訂において加筆を行いました。
ただ、本書は入門者向けのテキストで、金融論を理解するためのベーシックな事柄の説明が中心です。そのため、上記のような変化によっても、基本部分に大きな変更を加える必要はないと判断して、構成は大きく変えていません。
本書を利用して、金融の基礎知識をマスターして金融の知識を実際の生活にいかしていただきたいと思っています。
経済経営研究所 教授 家森信善