本書は、私が『産経新聞』夕刊に毎月連載している「欲望の美術史」の2015年から17年の記事を中心に、さらに『朝日新聞』『日本経済新聞』『芸術新潮』など、別の媒体に載った記事や書き下ろし原稿を加えたものである。いずれも大幅に加筆修正し、時事的な要素を抑えて美術をめぐる普遍的な問題につなげようとした。いくつかのテーマは、『欲望の美術史』『美術の誘惑』(いずれも光文社新書) や『裏側からみた美術史』(日経プレミアシリーズ) にも書いたことのあるものだが、やや視点を変えている。
(以下、あとがきより)
いったい美術にどれほどの力があるのだろうか。心に余裕のある平和な者には美しく有意義なものであっても、この世に絶望した終わった者にも何か作用することがあるのだろうか。正直なところ、私はそんな疑念から逃れられず、仕事だと割り切って惰性で細々と美術史という学問に携わっているにすぎない。ただ、かつてのように宗教や美術の力を信じたいという気持ちが絶えることはなく、今でも少しでもよい美術作品を求めては重い腰を上げて出かけている。もはや心から感動できることはないのだが、作品の良し悪しはかえって敏感に感じるようになった気がするし、今後もこうした求道と巡礼を続けるしかないと思っている。本書の何編かにはそんな思いを吐露している。
沙龙国际娱乐_澳门金沙投注-官网研究科 教授 宮下 規久朗