江戸派とは、賀茂真淵の門弟である加藤千蔭と村田春海を双璧として、寛政初年 (1789) に結成された派閥であり、和歌?和文の面ですぐれた作品を残したことにより、文学史に位置づけられている。江戸派は寛政?享和?文化の約二十年の間に、千蔭と春海を中心として活動し、近世後期都市江戸の雅の文化を創り上げたのである。
そもそも江戸派という名称は、しばしば本居宣長の率いる鈴屋派に対比する形で用いられてきた。古道論を主張した鈴屋派に対して、日本に「道」はないと喝破し、和歌?和文に長じた江戸派という構図である。旧著『村田春海の研究』(汲古書院、平成十二年十二月) においても、徹底的に宣長と比較しつつ、春海および江戸派の特質を顕在化させた。この観点は同時代的に見ても有効であり、江戸対松坂という人文地理学的見地の設定によって、近世後期の文化現象としてとらえることも可能である。
江戸派には宣長以外にも数多くの人々との交流があり、たくさんの書物の往来がある。そういった人的つながりや物的つながりという側面から江戸派をとらえると、これまでとは異なる像が立ち現れる。そのような人の交流と書物の往来の拠点となったという認識から本書を執筆した。
第一部は主に江戸派の和歌表現を論じ、第二部は江戸派の出版の問題を扱い、第三部は主に江戸派における学説の継承の問題を扱い、第四部は江戸派を取り巻く同時代の人々を論じた。全四部の構成を通じて、交差点としての江戸派の特質を論じ、国学が有する学問体系とその同時代的特徴を析出することを目指した。
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