東京大学大気海洋研究所の髙木俊幸助教、青山華子大学院生(大学院新領域創成科学研究科)、神戸大学大学院農学研究科の嶋川銀河助教(兼 大阪大学太陽エネルギー化学研究センター招聘研究員)らの研究グループは、造礁サンゴであるウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)を実験室で長期飼育し、2種類の白化(「高温による白化」と「栄養不足による白化」)と共生藻の光合成の関係を詳細に調べました。 サンゴは共生藻の光合成産物に加え、餌を食べて栄養を得ているため、給餌を止めると栄養不足になります。本研究では、沖縄で採集したサンゴを長期間馴致した後、給餌を停止し、常温(26℃)と高温(31℃)で1ヶ月間飼育しました。その結果、どちらの条件でも白化が進みました。高温では共生藻の光合成系が壊れて一斉に白化が起こる一方、常温での白化は光合成が正常なまま少しずつ進行し、白化しやすいサンゴほど成長が速いことがわかりました。常温での白化しやすさの違いは、サンゴが体内の共生藻を食べる能力に関係している可能性があります。本研究で明らかになったサンゴと藻類の共生関係の新たな側面は、自然界で起こる多様な白化現象を理解する手がかりとなり、サンゴ礁の保全や養殖に貢献することが期待されます。

この研究成果は、12月23日 11時に「Coral Reefs」誌に掲載されました。

高温ストレスにより一斉に白化するサンゴ(2024年8月沖縄県瀬底島周辺)

ポイント

  • 高温で起きる白化は、サンゴ共生藻の光合成系が壊れることで起こります。一方で、栄養不足で起きる白化は、光合成が正常なまま進行することがわかりました。
  • 栄養不足での白化の進み方にはサンゴごとに違いがあり、成長が速いものほど白化しやすい傾向が見られました。この白化は、サンゴが共生藻を食べてエネルギーを確保する適応戦略である可能性があり、必ずしも衰弱の兆候ではありません。
  • 本研究は、自然界で起こる多様な白化現象を理解する重要な手がかりとなります。得られた知見は、将来的なサンゴ礁の保全や養殖技術の改善に役立つことが期待されます。

研究内容

サンゴ礁は、海の生き物にとって「住む場所」と「食べ物」を与えてくれる、とても大切な存在です。今回研究したウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)は、サンゴ礁をつくる「造礁サンゴ」の仲間で、海の生態系を支える重要な役割を果たしています。サンゴ体内には褐虫藻という共生藻類がいて、光合成で作った糖などの有機物をサンゴに送っています。この共生関係が壊れると、褐虫藻はサンゴの体からいなくなり、サンゴは白くなります。これが近年、地球規模で起きている「サンゴの白化」です。

白化の原因として広く知られるのは高温ストレスです。高温でサンゴが酸化ストレスを受け、褐虫藻の光合成系が壊れることが引き金と考えられています。しかし、自然界では海水温と無関係に起こる白化もしばしば観測され、栄養不足でもサンゴが褐虫藻を食べて白くなることが報告されています。このように、白化には複数の原因があり、その仕組みはまだ完全には解明されていません。さらに、今回研究したミドリイシ属のサンゴは、実験室で長期間育てるのが難しく、「高温」と「栄養不足」の両方を同じ条件で比べた研究はありませんでした。

本研究では、髙木助教(東京大学)が持つ「サンゴ飼育?実験技術」と嶋川助教(神戸大学?大阪大学)が持つ「光合成を詳しく調べる技術」を組み合わせました。飼育条件を細かく制御しながら、高温で起こる白化と栄養不足で起こる白化の違いを詳しく調べたのです。沖縄県で採集した3つのサンゴ群体を使い、7ヶ月間、水槽で丁寧に育てました(図1A)。この間は週に3回餌を与えて、同じ種類の褐虫藻と細菌を持つ状態にそろえました。その後、餌を与えるのをやめて、サンゴを常温(26℃)と高温(31℃)に1ヶ月間置き、サンゴの色調や褐虫藻の光合成の働きを調べました。実験の結果、どちらの条件でもサンゴの色が薄くなり、白化が進んでいることがわかりました。ただし、常温での白化は群体によって進み方が異なり(図1B)、白化しやすいサンゴほど成長が速いことがわかりました(図1C)。さらに、褐虫藻の光合成の働きを日数ごとに調べたところ、高温では白化とともに光合成活性が減少するのに対し、常温で白化した場合は、褐虫藻の光合成活性が維持されることがわかりました(図2)。

図1:2つの異なる温度条件におけるサンゴ白化の様子 沖縄県瀬底島より採集したウスエダミドリイシ(群体A~Cはそれぞれ別の群体を示す)を常温(26℃)と高温(31℃)でそれぞれ1ヶ月間維持した。31℃ではどの群体も1ヶ月ほどで白化する。一方で、26℃では成長が速いサンゴ(セラミック土台をより広く覆っている群体)ほど色調が低下することが分かった。

 

図2:実験期間におけるサンゴ色調と褐虫藻の光合成活性との関係性 31℃では白化の度合いを示すサンゴの色調と光合成活性の低下に高い相関がみられた。その一方で、26℃ではサンゴの色調が低下しても褐虫藻の光合成活性は高く維持されていることが分かった。

本研究では、ひとつのサンゴ種を対象に、同じ条件下で「高温で光合成系が壊れる白化」と「栄養不足による白化」を初めて比較しました。興味深いことに、栄養不足の条件では、褐虫藻の光合成が正常なままサンゴが白化することがわかりました。この白化は必ずしも衰弱の兆候ではなく、サンゴがエネルギーを確保するために褐虫藻を消化する適応戦略である可能性があります。つまり、栄養不足に適応するために、サンゴは褐虫藻の光合成機能を保ったまま巧みに食べているのかもしれません。褐虫藻が減ることはサンゴにとってリスクを伴いますが、栄養状態が改善し褐虫藻が再び増えれば回復できる白化であると考えられます。また、成長が速いサンゴほど白化しやすい傾向が見られたのは、エネルギー需要が高いためと推測されます。サンゴと褐虫藻の共生関係が、非常に繊細で複雑な仕組みであることがうかがえます。今回の成果は、自然界で起こるさまざまな白化現象を理解するための重要な手がかりとなります。今後は、白化の分子メカニズムをさらに詳しく解明し、高温に強いサンゴや成長の速いサンゴを選抜する方法を確立することで、サンゴ礁の保全や養殖に役立てることが期待されます。

研究助成

本研究は、科研費「特別研究員プログラム(課題番号:20J00105)」「学術変革領域研究A(課題番号:24H02102)」、「基盤研究C(課題番号:24K08657)」、JST ACT-X(課題番号:JPMJAX20B9)、東京大学大気海洋研究所学際連携研究(JURCAOSIRG24-13)の支援により実施されました。

研究グループ                                        

東京大学
  • 大気海洋研究所

   髙木 俊幸 助教

  • 大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所

   青山 華子 大学院生(博士課程)

神戸大学
  • 大学院農学研究科?生命機能科学専攻

   嶋川 銀河 助教(兼:大阪大学太陽エネルギー化学研究センター 招聘研究員)

論文情報                                          

題名

The comparative roles of thermal inactivation of endosymbiont photosynthesis and nutrient deprivation in coral bleaching

DOI

10.1007/s00338-025-02800-z

著者名

Ginga Shimakawa*, Kako Aoyama, Toshiyuki Takagi*

掲載誌

Coral Reefs

研究者

SDGs

  • SDGs14