神戸大学大学院工学研究科の喜多隆教授と原田幸弘助教らの研究グループは、半導体のバンドギャップ内に新たに中間バンドを導入した熱放射*1発電素子において、同じ発電素子で昼は太陽光を、夜や高温環境では熱放射を利用して発電できるようになることを明らかにしました。太陽光発電は環境に優しい発電方式ですが、夜間に発電できないことが課題の一つとなっています。赤外線の放出過程を利用する熱放射発電は夜間でも発電できることで注目されていますが、バンドギャップエネルギー*2の小さい半導体を用いるため高温での動作が技術的に困難となっていました。本研究で提案された素子構造では高温での熱放射発電が可能となるため、今後、工場排熱等の余剰熱を活用した持続可能な発電システムへの応用が期待されます。

この研究成果は、2025年3月3日に英国科学誌『Scientific Reports』にオンライン掲載されました。

ポイント

  • 熱放射発電では、太陽光発電で発電できない夜間に発電できる。
  • 中間バンド構造を活用することで太陽光発電と熱放射発電の発電量の両立が可能となる。
  • 中間バンド構造を活用することで高温での熱放射発電が可能となる。

研究の背景

太陽光発電システム技術は、発電過程で二酸化炭素を排出せず、化石燃料に依存しない持続可能なエネルギー供給を可能とするため、カーボンニュートラルの実現に向けて研究開発が進められています。一方で、太陽光発電は太陽光をエネルギー源とするため、夜間に発電できないことが低い設備利用率の要因の一つとなっています。赤外線の放出過程を利用する熱放射発電は夜間にも発電可能な発電方式として注目されており、太陽光発電の欠点を補完する技術として昼夜を問わず安定したエネルギー供給を実現する可能性があります。

熱放射発電素子は、太陽電池と同様に半導体のpn接合*3を基本構造とし、環境温度よりも素子温度が高い状況で発電します。熱放射発電素子を構成する半導体のバンドギャップエネルギーの減少と素子温度の増加に伴って発電密度は増大しますが、ナローバンドギャップ半導体における真性キャリア密度*4が高いことに起因して、ナローバンドギャップ半導体で構成される熱放射発電素子では高温でpn 接合を形成することが困難であるという課題があります。

研究の内容

通常の半導体では価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップ内で電子は存在できませんが、半導体量子構造や不純物などがバンドギャップ内に形成するエネルギー準位を中間バンドとして用いることで、バンドギャップエネルギーよりも低エネルギーの遷移を熱放射や光吸収で利用できるようになります。本研究では、高温での動作が期待できる、中間バンド構造を導入した熱放射発電素子における発電特性を解明し、伝導帯から価電子帯、伝導帯から中間バンド、中間バンドから価電子帯の3つの遷移を利用することで発電密度が向上することを明らかにしました(図1)。これまでに、3つの遷移が可能なエネルギーに重なりが無い場合、中間バンド構造を導入することによって熱放射発電密度が低下すると報告されており、本研究によって3つの遷移におけるエネルギーの重なりが重要であることが明らかとなりました。

SiやGaAsは太陽電池に広く用いられている半導体ですが、バンドギャップエネルギーが比較的大きいため、それらを用いた熱放射発電素子では高い発電密度を得ることが原理的に困難です。一方で、SiやGaAsをホスト半導体とすることで高温でもpn 接合を形成できます(図2)。中間バンドを介した遷移を用いることによってホスト半導体のバンドギャップエネルギーを大きく維持できるため、同じ発電素子で昼は太陽光を、夜や高温環境では熱放射を利用して発電することが期待できます。

 

図1 中間バンドを利用した熱放射発電素子のバンド構造 環境温度よりも素子温度が高い状況では、矢印で示す、伝導帯から価電子帯、伝導帯から中間バンド、中間バンドから価電子帯の3つの遷移によって発電が可能となる。
 
図2 発電密度の理論予測 
代表的な半導体をホスト結晶とする中間バンドを利用した熱放射発電素子における発電密度。実線は真性キャリア密度が1015 cm?3以下である領域を示している。

今後の展開

中間バンドを利用した熱放射発電素子では高温での熱放射発電が可能となるため、工場排熱等の余剰熱を活用した持続可能な発電システムへの応用が期待できます。また、熱放射発電は太陽光の届かない宇宙空間での発電方式としても注目されています。熱放射発電の発電量は素子温度と環境温度によって決まります。深宇宙の温度は約3 Kと低温であることから、宇宙空間における低い環境温度を利用した発電システムへの応用が考えられます。

用語解説

*1 熱放射:物質が温度に応じて電磁波を放出する現象。熱輻射とも呼ばれる。熱放射発電素子では、熱放射によって電流と電圧が発生する。

*2 バンドギャップエネルギー:価電子帯の頂上と伝導帯の底のエネルギー差。

*3 pn接合:電荷を運ぶキャリアとして正孔が使われるp型半導体と、電子が使われるn型半導体を接合した構造。

*4 真性キャリア密度:熱励起によってバンドギャップを超えて励起されたキャリア(電子と正孔)の密度。

謝辞

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(課題番号:JP22K04183,  JP23K26142(JP23H01448))およびJST戦略的創造研究推進事業ALCA-Next(課題番号:JPMJAN24B1)の支援を受けて実施しました。

論文情報

タイトル

Output power-density limit of a thermoradiative diode with an intermediate band

DOI

10.1038/s41598-025-91800-8

著者

Yukihiro Harada, Fuka Nishii, and Takashi Kita

掲載誌

Scientific Reports

研究者

SDGs

  • SDGs7