神戸大学大学院海事科学研究科の三島准教授の研究グループは、複数の蓄電池や電気自動車と柔軟に接続できる、高効率な多端子形電力双方向の直流電力変換器(MP-BDC)を開発しました。
再生?持続可能エネルギーを利用した直流マイクログリッド※1は不安定な電源であるため、それを補完し、電力の平準化を担うBattery Energy Storage System(BESS)と呼ばれる電気エネルギー貯蔵装置が欠かせません。一方で、カーボンニュートラル実現?促進の観点から、将来にわたり普及拡大が予想される電気自動車(EV)のバッテリをDCマイクログリッドに繋げて活用する構成が次世代の分散電源として有用視されるなか、BESSとEVとの間で電力を柔軟にやりとりするための双方向直流電力変換装置の性能向上が待ち望まれています。このような次世代の分散型電源に対応する双方向直流電力変換装置として、三島准教授らは「フローティング4相インターリーブチャージポンプ」を呼ばれる双方直流電力変換器(F4P-ICPBDC)を開発していましたが、複数のBESSを抱えるより大規模な分散電源では、このF4P-ICPBDCの対応ができず、マイクログリッド内の電力を有効に利活用することが阻害される懸念がありました。
今回、当研究グループは高電圧比変換?高効率性に加えて複数のBESSがつながり、さらに発電装置の増設などシステムの変更にも柔軟に対応できる双方直流電力変換技術の確立する技術として、インターリーブチャージポンプを内包する2相変換器を最小ユニットにしながら、その自在な組み合わせにより複数のBESS構成にも柔軟に対応できる、新概念の双方向多端子直流電力変換器(MP-BDC)を新たに開発しました。今後、蓄電池?電気自動車?燃料電池などの新世代電力貯蔵?発電システムを組み入れた分散型電源に広く応用が期待できます。
この研究成果は、2月11日に国際学術論文誌『IEEE Transactions on Power Electronics』に掲載されました。

ポイント
- 高い拡張性を持つ双方向多端子直流電力変換技術を開発した。
- 複数の直流端子に対応するものである(理論上、個数制限なし)。
- BESS/EVバッテリの台数および電圧レベルに応じて、直列/並列の組み合わせパターンを大幅に拡大することが可能となり、電力変換器としての”高い拡張性”が実現した。
研究の背景
BESSやEVなどのエネルギー貯蔵?発電装置(以下、エネルギーデバイス)を組み合わせたマイクログリッド内のエネルギーマネジメントには、複数のエネルギーデバイス間で自在に電力を双方向(Bidirectional)にやり取りするための「電力インターフェース」※2として、効率な多端子双方向電力変換装置(MP-BDC)が不可欠です。特に、バッテリの動作電圧を拡大し、その蓄電量を効果的に利用するためには、広範囲な電圧変動に対応した電力変換の実現が鍵を握っています。
研究の内容
電力インターフェースの入力側?出力側に複数のエネルギーデバイスをもつシステム構成に対応できることがMP-BDCの価値を高めることになります。具体的には、入力直列-出力並列(ISOP)、入力並列-出力直列(IPOS)などの電力変換器の多重化に対応できるだけでなく、入力側?出力側がそれぞれ単一もしくは複数のエネルギーデバイスで構成される場合でも双方向(相互)に電力変換できる機能が求められます。また、直流負荷の電力需要に依存して変動する直流母線電圧に大きく左右されず、BESSとEVの蓄電量を自在に制御することも必要です。この課題に対して、当研究グループでは、先に開発した「インターリーブチャージポンプ(ICP)」と称される回路ユニットを組み合わせ、上述の多彩なシステム構成に対応できるMP-BDCおよびその派生回路トポロジーの構築に成功しました(図2)。その回路理論によれば、全てのエネルギーデバイスを共通の接地線(Common ground)に繋げることで、回路を構成するパワー半導体スイッチが引き起こす電磁ノイズを抑制することができます。これは特に電磁ノイズ障害への規制が厳しい車載電源には有効な回路?システム構成です。
高速性と低損失性および温度特性に優れた炭化ケイ素パワートランジスタ(SiC-MOSFET)を駆使し、定格2.5kW-動作周波数50kHzの試作機による実証評価を行い、昇圧に98.4%、降圧動作時に98.5%というMP-BDCとして世界最高レベルの変換効率を達成しました。また、両運転モードにて定格?20%負荷の広範囲において97.5%以上の高効率性を維持することにも成功しました。この高速性(高周波動作)と高効率性により、電力変換装置筐体の小型?軽量化の道筋も経ちました。

今後の展開
創出したMP-BDCは、DCマイクログリッドのみならず、車載電源や船舶?鉄道?航空機など輸送交通分野や、データセンターの直流給電システムにも応用展開が可能です。
なお、本論文では電力変換器としての基本特性の解析と実証に焦点を当てており、BESSの充放電モードは同期した状態に限定しています。今後、メガソーラー発電などより大規模なDCマイクログリッドへの適用に際し、より複雑な運転動作モードに対応した電力制御(エネルギーマネジメント)手法の確立が必要です。また、BESSとEV間で堅牢な絶縁性能が求められる電源システムには、高周波トランスを導入した絶縁形電力変換装置が適するため、本論文で創出した回路方式をもとに絶縁形MP-BDCを新たに開発していく予定です。
さらに、デジタルトラスフォーメーション(DX)への対応とした次世代の電源としての発展も視野に入れています(図3)。デジタル化の加速と5G/6G の発展に伴い、EV の消費電力は省エネ社会の実現とは裏腹に増加の一途をたどっています。提案する電力変換技術の研究開発により、図に示すような制御技術、放熱技術、バッテリ管理、ワイヤレス通信、人工知能(AI:Artificial Intelligence)、IoT(Internet of Things)などの専門技術の発展が促進されることが見込まれます。また、DCマイクログリッドの応用のみならず、DC-DC変換器を必要とする多様な分野にて応用されることが期待されます。用途ごとに変換器の仕様は異なりますが、本研究で確立する変換器の設計法に基づく各用途に最適なコンバータの実現が可能です。これらの研究課題について、三島准教授の研究グループは引き続き国際共同研究などを通じて取り組んでいく予定です。

用語解説
※1 直流マイクログリッド
発電装置(一部、商用電力を含む)?蓄電装置?電力消費機器を直流母線を介して接続する、”地産地消型”電力システムを意味する。
※2 電力インターフェース
電源と負荷など2つ以上の電動力応用機器の間を繋ぐ変換装置の俗称。特に、パワー半導体デバイスを利用し電圧や電流,周波数などの電気諸量を目的に応じて高速かつ高精度に調整制御するパワーエレクトロニクス回路を意味する。
謝辞
本研究は、2024年度JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2148)および令和4年度神戸大学?国際共同研究強化事業C型(テーマ名「データセンタの低炭素化に資する高電力密度配電システムの要素技術開発」)の支援のもと実施しました。
論文情報
タイトル
DOI
10.1109/TPEL.2025.3540557
著者
Shiqiang Liu1), Guiyi Dong1), Yong Ying1), Ching-Ming Lai2), and Tomokazu Mishima1)
1)Kobe University
2) National Chung Hsing University (Taiwan)
掲載誌
IEEE Transactions on Power Electronics