阪神?淡路大震災から30年となるのを前に、当時神戸大学生だった近藤民代?都市安全研究センター教授とNHKアナウンサーだった住田功一?大阪芸術大学教授(経営学部卒業生)が語り合うトークセッション「工学部一年生が見た阪神?淡路大震災」が12月11日、本学工学部で開かれました。震災関連の取材を続ける学生団体「神戸大学ニュースネット委員会」が主催し、神戸大学校友会、神戸大学工学振興会(KTC)が協力。NHK「ラジオ深夜便」の公開収録を兼ねて行われ、学内外の学生らが2人の語りに聞き入りました。

トークセッションで語り合う近藤民代?神戸大学都市安全研究センター教授(右)と、神戸大学卒業生の住田功一?大阪芸術大学教授(神戸大学工学部)

当時の学生の経験を聞くことで、現在の学生が震災を追体験し、災害への向き合い方を考えるきっかけにしようと企画されました。

近藤教授は、震災が発生した1995年、工学部建設学科の1年生でした。神戸市内で1人暮らしをしていましたが、発災当日の1月17日は滋賀県の実家におり、インフルエンザで寝込んでいたといいます。その後、初めて大学に行ったのは、授業などに関する説明会が開かれた1月末でした。

「電車の窓から、崩れた住宅の断面や内部の家具がむき出しになっているのが見えました。こんなにも建築物が壊れるものなのか、と驚いたことを覚えています。音の記憶がなく、無音の中でその光景を見た印象が残っています」

震災後、全国の研究者や学生らが参加して建築物の被害実態調査が行われ、近藤教授も同級生から誘いの電話を受けました。その際、悩みつつ参加しなかった経験に触れ、「実家の両親に『ここにいてくれてよかった』と言われたこともありますが、あの被災状況を見て怖かったというのが一番の理由です。いつ余震があるか分からない、という恐怖もありました。でも、今となっては『どうして行かなかったのだろう』という後悔もあります」と率直な思いを語りました。

阪神?淡路大震災当時の経験などを語る近藤民代教授

大学院に進学したのは、復興まちづくりの過程で市民と行政の橋渡し役をするコンサルタントなどの専門家の役割に関心を持ったからでした。また、大学院時代に取り組んだ活動の一つとして、当時の室崎益輝教授(現?名誉教授)の呼びかけで始まった「犠牲者聞き語り調査」があります。これは研究ではなく、遺族を訪ね、犠牲者が亡くなった状況や住宅の間取り、家族の思いなどを聞いて記録する活動でした。

活動に参加した動機について、近藤教授は「人の命を守るはずの建築がどのように人の命を奪ったかを知ることは、阪神?淡路大震災を理解する上での基礎になると思いました」と話しました。訪ねた遺族の中には、亡くなった神戸大学生の家族もいました。

「あるお母さんからは『もっと丈夫な下宿に住ませておけばよかった』という後悔の言葉を聞きました。同じ大学生だった自分が死んでいたかもしれない、と感じると同時に、後世に記録を残してほしいというご遺族の強い気持ちが伝わってきました。今思えば、私たちが学生だから思いを語ってくださったのかもしれません」と、当時の経験を振り返りました。

近藤教授の体験を聞きつつ、住田教授も自身の取材の経験や思いを語りました。神戸大学を卒業し、NHKアナウンサーとして被災地での取材を続けた住田教授は「震災直後は、後輩の神戸大学生が39人も亡くなっているとは思いもしませんでした」と当時のショックを語り、黒煙が上がる神戸市灘区の様子や、火災に見舞われた学生の下宿跡の写真を紹介しました。

「亡くなった学生の中には、倒壊した下宿に埋もれながら、助けに来た友人とペットボトルの水をやり取りしていた男子学生もいました。しかし、火災が迫ってきて、救助できなかったのです。友人たちは声を上げて泣いていたと聞きました」

住田教授は、亡き学生の父親から「親の手で子どもの遺骨を探す悔しさは言い表せない」と聞いたことに触れ、「30年たったからといって、震災のことがすべて分かったわけではありません。一つひとつの現場に、さまざまなできごとがあったのです。それをすべて取材したり研究したりした人はいません」と語りました。

会場参加者の声を聞く住田功一教授

トークセッションでは、近藤教授が東日本大震災の被災地で現地の若者とともに取り組んできたまちづくり活動や、居住環境とまちの復興にかかわる研究についても紹介。近藤教授は、会場の学生らに「安全なまちづくりや人が死なない対策、災害からの復興には、どのような学問分野でも貢献できます。震災を経験した神戸で学んでいる限りは、自分の分野で何ができるかを考えてほしい。そして、神戸の中で復興の歩みが刻まれている場所を一つでも多く見てほしい」と呼びかけました。

 参加した学生からは「テレビのニュースなどでは分からない部分を知ることができた」「自分が学んでいる法学の分野でも何らかの貢献ができるとあらためて認識した」「安全のための技術があることと、それが社会に浸透することの間にギャップがある、という話はその通りだと思った」など、さまざまな感想が聞かれました。

NHK「ラジオ深夜便」では2025年1月4日(土)、午前4時台の「明日へのことば」のコーナーで放送を予定。インターネットラジオ「らじる★らじる」の聴き逃し番組サービスも1週間利用できます。

 

研究者

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