神戸大学校友会 会長 坂井信也さん 

「One Kobe Family」。2022年に発足した神戸大学校友会の旗印だ。卒業生、在学生とその家族、教職員など、神戸大学ゆかりのあらゆる人々を包含するネットワークを目指す。

その初代会長に就いたのが、阪神電鉄名誉顧問の坂井信也さん。1970年に経済学部を卒業し、阪急阪神ホールディングス代表取締役などを務めた。2008年から約10年間、プロ野球?阪神タイガースのオーナー職にあったことでも知られる。

神戸大学は現在、10学部、15研究科(大学院)、1研究所の規模を誇り、総合大学として幅広い人材が集う。ただ、明治時代の前身学校からさまざまな生い立ちと変遷をたどってきた背景があり、同窓会も学部ごとに組織されている。さらに、キャンパスが市内各地に分散していることもあって、大学の統一カラーが見えにくいという課題が指摘されてきた。

「大学としての一体感をもっと打ち出す必要がある、と常々考えていました」と坂井さん。校友会の会長職はいったん固辞したが、最終的には「お役に立てるのなら」と引き受けた。「各学部の同窓会との調整など課題はありますが、まずは大学の一体感を作り上げるという会の目的を重視しました」と話す。

若者の未来を支える組織に

校友会の役割として、坂井さんは「若者の未来を支えること」を特に重視する。

「同窓会は過去の体験?経験を共有し、交流する場になりがちですが、校友会は将来に向けて人的ネットワークを作り上げ、広げていく場、いわば体験?経験を創造していく場と捉えています。同窓生が若い人々の活躍を後押しし、ひいては社会貢献につながる組織でありたいと思います」

校友会が発足して約1年半。毎年10月のホームカミングデイ、大学の役員と卒業生らが意見交換する「神戸大学人の集い」を大学との共催にし、ネットワークの基礎づくりを進めてきた。また、学生の課外活動団体の行事を全学新入生歓迎イベント(2023、2024年度はアメリカンフットボール部の対外試合)と位置づけて支援するなど、在学生と卒業生の垣根を超えた一体感の醸成に力を入れる。

全学新入生歓迎イベントとして行われたアメリカンフットボール部の対外試合で、声援を送る神戸大学の学生や卒業生

ただ、本格的な活動展開はこれからだ。坂井さんは「大学ができないことをするのが、校友会の役割ではないか」と、枠にとらわれないアイデアを思い描く。

「例えば、大学で何か問題が持ち上がったとき、学生が自由に意見を出し合える場を用意する、といった活動もあり得るでしょう。卒業生が司会をしてもいい。そういう自由な議論の場を通して、課題解決の新たな発想も出てくると思います」

人的ネットワークこそ財産

校友会は今後、卒業生や在学生などの個人会員に加え、企業や団体などにも賛助会員としての参画を積極的に呼びかける方針だ。

神戸大学校友会のイメージ図 

呼びかけに力を発揮するのは、やはり卒業生の人脈。坂井さん自身、神戸で生まれ育ち、神戸高校、神戸大学に進んだ生粋の神戸人だ。社会人となった後も一貫して関西を拠点にしており、ネットワークの広さは計り知れない。

「阪神電鉄の社長時代は、さまざまな業界にいる神戸大学の卒業生に助けられました」という。社長に就任したのは、阪急ホールディングスとの経営統合を控えた2006年6月。投資ファンドによる阪神電鉄株の大量取得をきっかけに、大手私鉄が統合する前代未聞の事態となった時期だった。その難局の渦中、社内外の同窓生が坂井さんを支えた。

「神戸大学の出身者は建前でなく、現実を見て対応する人が多い。問題の終着点まで見据え、現実的な解決策を探ろうとする。融通無碍(ゆうずうむげ)なんです。あまり主張しないけれど、挫折もしないんです」と笑う。

そんな卒業生の姿は、「学理と実際の調和」という建学の理念に通じるのかもしれない。そして、その人的ネットワークこそ神戸大学の財産といえる。

 大学との縁は脈々と

坂井さんが学生生活を送った1960年代後半、キャンパスは大学紛争の真っただ中にあった。

学舎は机やロッカーを積み上げたバリケードで封鎖され、授業のない日々が続いた。坂井さんは公認会計士の資格取得を目指していたが、勉強どころではなく、卒業を迎えた1970年は全学卒業式も中止された。

「手元には証書も成績証明書もなく、本当に卒業したのかさえ分からなかった。阪神電鉄に入社後、人事の部署から問い合わせがあったので、大学に電話で『自分は卒業していますか』と聞いたんですよ。それで、無事に卒業を確認しました」と苦笑する。

大学が創立120周年を迎えた2022年、1970年の“幻の卒業式”が六甲台キャンパスで行われ、坂井さんは実行委員会の代表を務めた。卒業から50年あまり。大学との縁、同窓生とのつながりは脈々と続いてきた。

「いろいろな人に引き立てられ、学ばせてもらってきました。縁を広げられたのは、大学のおかげですよ」

混沌の時代を振り返りつつ、穏やかな笑顔で話す坂井さん。今、感謝の思いを次世代へのエールに替え、校友会会長として大学の未来のために力を尽くす。

略歴

さかい?しんや 1948年、神戸市生まれ。1970年、経済学部卒。同年、阪神電鉄入社。入社を決めたのは友人の誘いで、卒業の年の3月だったという。阪神電鉄社長、阪急阪神ホールディングス代表取締役、阪神タイガース取締役会長兼オーナーなどを歴任。2022年12月から神戸大学校友会会長。神戸市在住。

神戸大学校友会

卒業生、在学生とその家族、教職員らを会員とし、学部の同窓会に属していない人らも含めた全学的なネットワークを目指す。会員の交流にとどまらず、神戸大学の研究、教育、社会貢献活動などを支援し、大学の発展やブランド価値の向上を目的に掲げている。

同窓生や在学生らを結ぶネット上のツールとして大学が運営する「KU-Net」(現在の登録者は約1万4千人)の利用促進にも力を入れている。

神戸大学校友会ウェブサイト

 

SDGs

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