神戸大学大学院医学研究科循環器内科 西森誠医師?木内邦彦特命助教らは、頻脈の原因となる「副伝導路」と呼ばれる心臓内の余分な通路の場所を、複数の検査データから予測するAIを開発しました。本研究では、心電図や胸部レントゲン写真といった全く異なる検査結果をAIに学習させることで診断精度を向上させることができました。本研究の成果をもとに、今後は他の疾患への応用も期待されます。

この研究成果は、4月13日午前10時(現地時間)に英国科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

研究の背景

不整脈疾患の中でもWPW症候群という疾患は、生まれつきもっている「副伝導路」と呼ばれる心臓内の余分な通路が原因の疾患であり、脈が速くなる頻脈発作を起こします。この副伝導路はカテーテルを用いて選択的に焼灼すること(カテーテルアブレーション)で根治が期待できます。カテーテルアブレーションによる成功率は副伝導路の部位により異なるため、従来は治療前に体表12誘導心電図(健診で行う一般的な心電図のこと)から、副伝導路の位置を予測し治療に臨みます。ところが、心電図のみを用いた従来法では予測精度は十分ではなく、患者さんに成功率を含めた十分な説明ができておりませんでした。本研究ではAIを使ってこのような問題の解決に臨みました。

本研究ではAIの中でも深層学習という手法を使いました。深層学習はプログラムにそれぞれの患者のデータとそれに対応する答えを与えて、繰り返し学習することによりプログラムが自動的に賢くなる仕組みです。これにより、今まで解決できなかった問題を解決できる可能性があり、近年医療の分野にも応用が進んでいます。

研究の内容

西森医師らは、まず心電図だけを使ったAIを作成し、従来法との比較を行いました。このAIにはそれぞれの患者の心電図を入力し、同時に答えとして副伝導路の場所を教えることで繰り返し学習を行い、従来法よりも正答率が高いAIを作ることができました。しかしながら、心電図だけを入力しても完全には予測することができませんでした。その原因として、心電図はそれぞれの心臓の大きさや向きといったものに影響されてしまい、同じ副伝導路の場所なのに心電図が一致しないということが考えられました。そこで、心臓の大きさなどの情報をもつ胸部レントゲン写真を同時にAIに学習させることによって、この問題を解決しました(図1)。術前に行われた心電図に加え胸部レントゲン写真も一緒に学習してしまうことで足りなかった情報を補うことができ、心電図だけを用いた場合に比べ診断精度は飛躍的に向上しました(図2)。

(図1) 開発したAIの入出力イメージ
(図2) 診断の学習回数と正解率

今後の展開

近年のAI技術の発展により、医療分野でも様々な検査データから精度の高い診断ができるようになりました。しかしながら、一つの検査データから診断するだけでは不十分な場合もあります。本研究では心電図という一つの検査だけでなく、胸部レントゲン写真という全く別の検査データをAIに学習させることで精度を向上させることができました。AIを用いた正確な診断は、治療前の患者さんにより正確な病状説明が可能となり、患者さんの不安を和らげる効果が期待されます。また、本研究は他の様々な疾患への応用が可能であり、AI診断ソフトウェアへの実用化も期待されています。

論文情報

タイトル

Accessory pathway analysis using a multimodal deep learning model

DOI

10.1038/s41598-021-87631-y

著者

Makoto Nishimori, Kunihiko Kiuchi, Kunihiro Nishimura, Kengo Kusano, Akihiro Yoshida, Kazumasa Adachi, Yasutaka Hirayama, Yuichiro Miyazaki, Ryudo Fujiwara, Philipp Sommer, Mustapha El Hamriti, Hiroshi Imada, Makoto Takemoto, Mitsuru Takami, Masakazu Shinohara, Ryuji Toh, Koji Fukuzawa, Ken-ichi Hirata

掲載誌

Scientific Reports

関連リンク

研究者