あかちゃんが、一人でスプーンを使って食べ始めるようになっていくとき、その行為を方向づけていくのは、養育者との間のどのようなやりとりなのでしょう。
神戸大学大学院人間発達学環境学研究科の野中哲士教授、ミネソタ大学のThomas A. Stoffregen教授の国際共同研究チームは、日本国内のある保育園において、スプーンを使い始めた直後の乳児を対象に、養育者と乳児の食事場面における相互の関係を調査しました。
本研究成果は、2020年12月11日に科学誌「Developmental Psychobiology」に掲載されました。
研究の概要
本研究では、日本国内のある保育園の0歳児クラスの昼食場面を10ヵ月間縦断的に観察し、スプーンを乳児が使い始めた直後の食事場面を抜き出して、 (1) 養育者による介助、 (2) 乳児のスプーン使用、 (3) 乳児が養育者に向ける視線、という3者の時間的関係を検討しました。
検討の結果、養育者は皿の位置や皿の上の食物の配置を調整し、乳児が自分で食べることを可能にする卓上の機会を絶え間なく調整しており、こうした調整の直後に乳児がスプーンを食物に向ける行為が偶然より多く生起していたことが示されました。また、乳児は食事場面では養育者の「顔」よりも「手」を見ている時間がはるかに長く、さらに養育者が卓上の調整を行っているときは他の状況よりも8倍も多く養育者の「手」を見ていることがわかりました。また、食事場面で乳児が養育者の「顔」を見る状況は、「手」を見る状況とははっきりと異なっており、乳児が自分で食物をスプーンで口に運んだ直後か、食事と無関係な遊びにスプーンを用いた直後に、自分のしたことを養育者が見ていたかをチェックするかのように養育者の「顔」を見ることが偶然より多いことが示されました。
これらの結果は、食事場面で養育者の「手」に向ける視線と「顔」に向ける視線が異なる役割を担うことを示すとともに、乳児がひとりでスプーンを食事にふさわしいかたちで使うようになる過程において、 (1) 養育者による周囲の機会の調整と、養育者の手に乳児が向ける注意の結びつき、 (2) 乳児の行為に反応を示す養育者と、養育者の顔に乳児が向ける注意の結びつきという、養育者の行為と乳児の注意の間の二種類の双方向の結びつきが存在することを示すものです。
論文情報
タイトル
“Social interaction in the emergence of toddler’s mealtime spoon use”
(スプーンの使い始めにおける幼児の社会的相互行為)DOI
10.1002/dev.21978
著者
Tetsushi Nonaka, Thomas A. Stoffregen
掲載誌
Developmental Psychobiology Vol.62