神戸大学の尾崎まみこ名誉教授(センツフェス株式会社代表取締役社長)が、2023年12月19日に起業した「センツフェス株式会社」が、3月7日に神戸大学発ベンチャーに認定されました。種々な業種の企業や施設等とも協働して、匂いの社会的な価値創造を目指す会社です。“世界初の赤ちゃんの匂いの再現香料”の設計などをはじめとして、周産期の母子や、現代人のストレスからの解放といった社会的な課題解決に目を向けた取り組みを通して「匂い産業新時代」の一翼を担う会社として期待されます。

社会問題が契機となって転身

2023年8月22日発行朝日小学生新聞「疑問解決?赤ちゃんのいいにおい」より一部改変(イラスト:山本正子)

尾崎名誉教授は、神戸大学の学生の時から昆虫の研究を始め、アリの社会行動を司る敵?味方フェロモンの研究で著名な業績を残しました。また、在来アリのフェロモンの匂いが「強大なイリュージョン敵」となって外来アリの脳に恐怖をひきこす性質を利用したアルゼンチンアリやヒアリ防除の研究を行う等、2020年3月に退職するまで、本学で数多くの成果を上げています。

アリの研究が人間の赤ちゃんの研究に結びつき始めたのは2018年ごろ、それが決定的になったのは、2020年の冬にテレビから幼児虐待死のニュースが聞こえてきた瞬間だったそうです。

言葉をもたないアリは自分が出す匂いで自巣の仲間に味方として認知されます。それなら、言葉が話せない人間の赤ちゃんも、自分で出す匂いで家族の一員として迎えらようとしているのではないかと思い立ち、世界中でお母さんだけでなく赤ちゃんに接した人たちが異口同音に「赤ちゃんの匂いはいい匂い」というのには、周囲の人たちを魅了して疎まれることを防ぐ科学的な根拠と生物学的な意味があるに違いないと考えたことが、アリ研究から赤ちゃん研究への転身につながりました。

概念実証研究を経て起業

2018年にこのアイデアをもとに神戸大学と浜松医科大学が共同で特許の出願をし、日本学術振興会とJSTの支援のもと、尾崎さんを代表にして、神戸大学、奈良女子大学、浜松医科大学、産業技術総合研究所、東京大学、岩手大学のチームによる、出生直後の新生児の頭部の匂いの研究が本格的に始まりました。ストレスフリーな方法による赤ちゃんからの匂いのサンプリング、サンプルの高精度化学分析とその結果に基づく再現香料の作出、再現香料を使った脳計測と唾液中オキシトシン等の測定、心理学的感覚評価といった研究を通して、2022年に分析?再現、機能?効用についての一連の実証実験が終了しました。それまで人間に由来する匂いを丁寧にサンプリングして高精度に分析し、再現香料を作って活用する技術はほとんどありませんでした。

イノベーションジャパン2024に出展

 

2023年12月に設立されたセンツフェス株式会社は、2024年3月7日に神戸大発ベンチャーの認定をうけました。センツフェス(Scent Fest)という社名には、香りのフェスティバルという意味が込められています。2024年8月22日から23日にかけて東京ビッグサイトで開催されたJST主催の大学見本市(イノベーションジャパン)では、神戸大学の出展ブースに、新生児の頭部の匂いの再現香料を入れたボトルや賦香グッズの試作品を囲んで様々な業界の人々との交流の輪ができ、これからの「匂い産業新時代」の到来を予見させる光景となりました。10月17日から19日には、東京ビッグサイトで開催されるフェムテックTokyo2004への出展も予定されています。

 

 

機能性と社会性を特色とした再現香料の活用

さわやかでフルーティーな香りが特徴的な出生直後の赤ちゃんの頭部の匂いの再現香料に続き、尾崎名誉教授は、やや甘くてしっかりした香りをもつ羊水の匂いの再現香料を試作して、その研究成果を9月11日から13日に岡山大学で開催された日本味と匂学会、9月30日から10月1日に名古屋大学で開催された日本比較生理生化学会で発表しました。

赤ちゃんの頭の匂いは、それを嗅ぐお母さんやその他の人たちの心身をリラックスさせて、また嗅ぎたいと思わせる効果を持つ可能性があります。一方、羊水は胎児にとって安全?安心な環境そのものですから、その匂いを嗅ぐと、母体から離れた赤ちゃんに安全?安心の感覚を与えるだけでなく、もしかすると、誰もが記憶の底にもっている安全?安心感覚がよみがえってくるかもしれません。赤ちゃんの匂いや羊水の匂いなどの本来の役割を心得て、再現香料の機能性を活かし、ストレスフルな社会の課題解決にどのように役立てていくか、可能性は広く様々な取り組みが期待されます。

 

【関連リンク】
センツフェス株式会社

(総務部広報課)