本年、神戸大学は、初めて「統合報告書」を発行しました。「神戸から世界へ 過去から未来へ」というテーマで、本学の歴史、神戸大学ビジョンに基づく戦略や活動実績をストーリー仕立てでご紹介する報告書となっています。11月9日(土)には、第一回 統合報告書 発行報告会として、シンポジウム「シンダイシンポ2019」を開催しました。第一部では、学長講演並びに神戸大学の統合報告を、第二部では、ステークホルダーとのダイアログ(対話)として、各界で活躍されている本学卒業生の講演及びパネリストと学長との対談を実施しました。
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パネリスト:宮永 裕氏(オムロン株式会社)、大槻 櫻子氏(有限責任あずさ監査法人)、阪 智香氏 (関西学院大学)、武田 廣学長、ファシリテーター:國部 克彦副学長

 

大学における価値創造-中長期視点

國部副学長(以下、國部):それではこれからパネルディスカッションに入りたいと思います。3人のパネリストの先生方の講演のインパクトが非常に強かったのでディスカッションも盛り上げていきたいと思います。最初に、宮永さんの方から企業価値の創造というお話をいただきました。企業の立場から見て、大学の価値創造、あるいはこの統合報告書に対して、ご感想でもご意見でもあればそれを皮切りに話を進めたいと思っています。

オムロン株式会社宮永氏(以下、宮永):企業の価値創造で考えていかなければならないことと似てるようで、違うとこもあるなと思っています。我々はやっぱり経済価値から入っているんです。経済価値から入っても大槻さんが言われるように、経済価値に出ないとこがあって、やっぱり非財務的な価値、本当の意味での価値創造がないと企業は生き続けられないというとこなんですね。ですから、社会価値と経済価値をいかに統合、好循環を作り出して、成長し続ける、原資を稼いで次の価値創造につなげて、価値創造がまた次の原資を産むという、グッドサイクルを作るのが一番大事だと思ってるんですね。その辺のつながりの仕方がちょっと違うのかなという感じはちょっと感じましたね。

國部:ありがとうございます。企業だと価値が循環していかないと生命が続かないわけなんですけども、武田学長のほうから神戸大学の価値創造について、お答えいただければと思います。

武田学長(以下、武田):外部からのパネリストの発表を聞いて、発言したい項目がたくさん出てきました。一つはですね、リーマンショックの原因が何だったかという分析の中で投資家の短期志向があって、結局わけのわからん投資に手を染めてしまった、と。何だ、これは今の大学の置かれてる状況と全く同じじゃないかって感じました。来年の予算を獲得するために膨大な量の業務成績報告書を書く。京都大学が作成した業務報告書が4000ページだそうです。今年何やりましたか、どれだけ成果がありましたか、論文どれだけ書けましたか、そういうことを見られるわけですね。まさに短期的な思考ですよ。

運営費交付金が削減されて若手のポストが減って有期雇用になっている。有期雇用になると3年なり5年で成果を出さないと次のポストがなくなるわけですね。身分が不安定になって、ポスドクのみなさんはすぐ結果が出るような研究テーマに手を染める。そうするとじっくり腰を落ち着けた、ノーベル賞につながるような研究は出てこない。乱暴な経済人は、別にノーベル賞取らなくたって良いって言うんですね。ノーベル賞で飯が食えるわけじゃないだろうって。ただ、それで日本の大学や世界の大学はそれで良いのかっていうことですよね。大学における価値創造というものが持ってる特殊性があるんではないかと思います。人類の知的財産を作っているんだというぐらいの自負を持って皆活動してると思うんですよ。その時に論文何個出しましたか、外部資金をいくら獲得しましたかということを評価指標にして動かざるを得ない今の状況は、非常に問題だと思う。もう少し自由にさせてくれっていうのが、まさに学長として望むところですね。このままだと大学は危ないぞっていうのはもう本当に感じています。これ国立だけでなくて私学も似た状況だと思いますね。

 

統合報告書の意義-推進力?巻込む力

國部:ありがとうございます。統合報告書の歴史は、先ほど大槻さんの方からお話がありましたが、2007年のリーマンショックが転機となっておりまして、企業が過度の短期主義に陥ると、最終的には市場が壊滅するリスクが高まることが経験的に分かりました。そのため、企業社会では中長期の価値創造が大切というコンセンサスが世界的に形成されるようになりました。しかし、国立大学は先ほど学長が申し上げたとおり全く逆の傾向が強まっております。そのような状況下で統合報告を国立大学が出す意義は、中長期的思考にもう一度戻す推進力になればよいのではないかと思いました。統合報告書を出すことで、組織というものはどういう風に変わるのか、オムロンの宮永さんには統合報告書の大先輩として、組織に与える影響について教えていただけますでしょうか。

宮永:大槻さんが言われたように、株主のためだけに作っていない。社員の顔を表紙にあれだけ載せたのは、社員に読ませるため。我々が社会に対してどんな影響を与えるような仕事をしているか、もっと言うと自分の働く意義、仕事の意義について考える機会というものを、統合報告書を教材にして社員同士がいろいろな雑談も含めてやれるようになった。極めて非財務的な、その代わり価値の高い状況が統合報告書の良い効果として出てきた。顧客にもオムロンはどういうものか、統合報告書をもって説明している。

國部:社員あるいは顧客を関与させる、私たちのことを知っていただくことで仲間になっていただく、ネットワークを拡げていく、という効果を実感されているということですが、そのあたりについて、大槻さんがたくさんの組織を見られてきていて、ご意見をいただけますでしょうか。

有限責任あずさ監査法人大槻氏(以下、大槻):統合報告書を作るある種のメリットは、投資家に向けて情報を提供するというだけではなくて、それ以外でいうと、例えば就職活動をしようと思っている学生さんが読むということがある。やはり統合報告書というのは、ありたい姿?将来を示している。「この会社はここに向かっているのか」ということを非常に良く理解できるとても良いツールなんだと思います。その意味で、就職活動をする学生さんとか、企業のM&A、アライアンスを組むとか、企業間同士の情報を交換していくために、財務情報だけでない、自分たちがありたい社会みたいなものが、理念として共有できると聞いています。

國部:ありがとうございます。もともと統合報告書は企業の場合は財務とサステナビリティの統合が目的だったのですが、様々な関係者を統合していく力が統合報告書にあればもっと望ましいですね。本学は統合報告書を出したばかりですが、学長からは統合報告書の作成のプロセスを見られてどのように感じておられるかご意見いただけますか。

武田:まず統合報告書という名前なんですけど、昨日、各大学の学長会議があって、隣に座った学長に神戸大こんなの作ったんだよ、統合報告書。と言ったら「どこの大学と統合するんだ?」って。これは使える冗談だなと思いました。そのくらいまだ国立大学の学長の中でも認識はほとんどない。僕も、今年に入ってから統合報告書を作るとなって、統合って名前に違和感はあったし、サステナビリティっていうところもまだクエスチョンマークです。ただ学長として情報発信は大事なんだけど、どこの学長も気になっているのは、文部科学省に出す報告書がどっとあることです。これは教育研究、それから今も財務省と色々やり合っているのだけど予算をどう配分するかとか、そのときの指標を今決めようとしているわけです。そのときの指標と統合報告書で言っている我々が目指す大学像というものが必ずしもオーバーラップしていない。この辺が非常に忸怩たる思いがあるわけです。その中には教育の指標で、学生さんの例えば4年での卒業率であるとか、定員の充足、この辺までは許されていいのだろうと思うけど、例えば研究で、トップ10%論文がいくらぐらいとか、諸々の指標を文科省なり大学改革支援?学位授与機構あたりが集めようとしているわけです。しかしストーリーになっていない。だから、それとは別に統合報告書のストーリー性ですよ。ストーリー性を出すっていうのは、僕は非常に大事だと思う。先ほど企業に就職するときの参考にもなると言いましたけど、大学に入学するときにも、高校生が見るかもしれない。

國部:ありがとうございます。今回のプロジェクトには、神戸大学の若手職員も先ほど講演させていただきましたが、彼らが積極的に関わっていることについてはいかがでしょうか。

武田:他の大学の職員との接触の経験がないのでなかなか比較が難しいのですけど、非常にアクティブなんじゃないですかね。無理難題を平気で言ってきますよ。学長に対して。非常にそれは頼もしい。頑張ってもらいたいと思います。

國部:ありがとうございます。統合報告書はビジョン発信プロジェクトとして自主的に集ってやっています。これも一つの職員を巻き込む方法だったなと思っております。本シンポジウムは「対話」がテーマですので、次にフロアの皆様と対話させていただきたいと存じます。フロア皆様ご意見ございますでしょうか。

 

参加者とのDialogue(対話)

参加者からのご意見

参加者(近隣住民):私も統合っていうことで勘違いしていたのですけども。神戸大学と神戸商船大学の統合っていうことをちょっと思って来ました。私自身が海王丸の練習船、神戸大学の海事科学部の子達が乗る実習船に、遠洋航海に一般の研修生として参加させていただきました。そのときに武田学長先生がお見送りに来られていたので、それも印象に残って、今日のシンポジウム、区役所でチラシを見て参りました。海の大学になるというところでお話がしたいなと思いました。

参加者(他大学職員):大きく二つございまして、先ほど評価軸といったようなお話が学長の方からあったと思いますが、この評価軸に関しまして大槻さんにお伺いしたいのですが、評価軸として大学の統合報告書なりを見ていただきまして、何かご提案があれば是非教えていただきたいということでございます。また、もう一つは先ほど膨大な評価の為の報告書を作られるということでございますけれど、わたくしそこに絡んでいた経緯もございまして、実は法律で決まっている内容では有りますけども、中身まで決まっているわけではございませんので、例えば、統合報告書なりをその報告書に代えることは出来ないのかという課題をご提案させていただければと思います。

参加者(他大学教員?卒業生):私は統合報告が研究対象でもあって、いろいろ見たことがあるんですけれども、もともと企業で財務情報を補完するというところから非財務の重要性がきたと認識をしていたので、大学が統合報告を出すっていう意味は何だろうかってずっと考えておりました。ただ、今日学長のお話等を聞いてて、結構財務のところの重要性があるのではないかなと感じました。コストを分析してそれをわかりやすく開示するということを今回チャレンジされているんですが、今後これをどういう形で財務と非財務を結合して開示していく方向性を考えていらっしゃるのか、というところについてお話を伺えればと思います。

参加者(他大学教員?卒業生):V.スクールについてちょっとお伺いしたいんですが、V.スクールがおそらく神戸大学の今後を担うのかなっていうところで、今後どういう形で発信していくのか。世界的に見て日本的に見ても、神戸良い町だなっていうぐらいの印象しか外からは見られないので、ぜひそういったところ積極的に発信していただきたいと思います。

國部:ありがとうございます。最初にご指名いただいた大槻さんに評価軸について、大学の統合報告書に定量的な軸があるのかどうかというご質問に答えていただいて、その後に武田学長から今のご意見を受けて、ご回答いただくことにしたいと思います。それでは大槻さんからお願いします。

大槻:評価軸の問題ですが、おそらく具体的に検討されているからこその悩みなんじゃないかなと思います。これは企業でも同じようにどの様な評価軸を持つかっていうことについては非常に議論されており、今まで企業が、評価指標、KPIと呼ばれるものを提示するのは、売上高?利益、最近ならROE?ROICとかですね、そのあたりぐらいなんですよね。それだけでいいのかっていう議論が、やはり日本企業もしくは世界全体のなかでもあります。

評価指標というのは、ありたい社会やありたい姿に対するゴールを示すっていうケースもあれば、その途中プロセスを表すというケースもあると思います。その資源配分をするための、どういった投入をするのかっていうことかもしれません。

いずれにしても、目標に向かって言葉で示したものを、神戸大学では12ページ13ページで、価値創造プロセスの図がありましたよね。ここに経営基盤や活動モデル、それから価値創造について文言があります。例えば、研究であれば「世界トップレベルのフラッグシップ国際研究拠点の形成」、教育であれば、「課題発見?解決型グローバル人材の養成」。耳障りはいいのですが、結局どういうものなのか、と感じてしまいます。日本の企業は「言いっぱなし」が多すぎます。計画の際に文章で言ってるだけ、ということが多いです。では、達成度はどこで測っているのかと。まさにそれを普段からモニタリングすることが、経営だと思います。ですから、価値創造に向けて、目標をどうすれば評価できるのかということを議論することから始まるのだろうと思います。60ページに非常に多くの評価指標が掲載されていて、非財務情報のKPIが非常に充実していて、なんと素晴らしい考え方なのだろうと思いました。先日國部先生と打合せさせていただいたときに、これは文科省に出すためのものだとおっしゃり、そういうことかと思いました。それでいいのかと。言いっぱなしになっていないかということをよく考えて、それをしっかり経営に生かすことにつなげられるような体制にされることから始まるのではないかと思います。

國部:ありがとうございました。それでは、武田学長お願いします。

武田:まず評価軸の話なんですが、これは2つの側面があります。1つ目は、運営費交付金を配分するにあたって、大学の評価指標がいかにあるべきかというワーキンググループがあって、昨日もその暫定案が提示されました。

教育面、研究面、社会貢献など、各項目について、議論がありました。膨大な量の指標があります。これは、未来を見据えてというよりは、運営費交付金をどう配分してもらうかというための指標なんですね。教育にはほとんど目配りしないで、論文数はいくらですか、獲得した外部資金の教員当たりの金額はいくらですか、それによって配分しますよということをやったわけですね。それでは教育の視点が全く抜けてるだろうということで、国大協が提言を出したんですね。ただそれで終わりではなくて常に議論しなきゃいけないものだと思ってます。

もう一つは年俸制の問題が進展していて、各国立大学法人は教員の業績評価をしなさい、その結果を処遇に反映させなさい、そういうことが求められています。教員がどういうパフォーマンスを去年あるいはここ数年行ったかということを評価しなきゃいけない。これは大変な作業で、大学の先生を評価するなんてことはもってのほかだ、という人もたくさんいるわけですね。10年間も沈思黙考して俺は何かを考えてたという先生もいるわけですよね。ある意味でコンセンサスをとって、自己申告があって、ピアレビューがあって、部局長なり学長がおそらく財務状況と相談しながら決めていく。みんなAの〇〇ですよって言ったら財務状況は破綻するわけですね。そういうこともあって評価軸というのは難しいが、ただお互いに納得してやらざるを得ないですね。

それからもう一つは財務状況の分析がもうちょっとあってもいいんではないかということですけども、おっしゃる通りです。今どこの国立大学もお金が足りないということを訴えてるわけですけが、どこが足りないんですか、研究経費が足りないんですか、教育費が足りないんですか、どう増やしたらいいんですか、ということを聞かれるのも当たり前ですよね。そうすると、コストがどう細分化されていくか「コストの見える化」をやらなきゃいけない。これは、やってどうなるかがはっきりわからない。つまり、電気代がかかりました、これは教育経費ですか、研究経費ですか、こういう仕訳をしなければいけないわけですね。たとえば、電子ジャーナルの問題です。これが寡占状態で、値段をつり上げるという罠にはまってるんです。かなりの負担だけども、これも教育コストですか、研究コストですか、そういう分析というのは簡単ではない。教育はある意味で尺度にのらないところも沢山あるわけですね。研究のところもある。できるだけコストの見える化を進めますけども、分析しきれないところも必ずある。だから逆にいうと大学というところはそういうところなんですよ、と言うと開き直ってると怒られるけども、そういう感じですかね。

國部:ありがとうございます。私も財務戦略担当の副学長になって分かったことがあります。それは国立大学法人会計そのものが情報開示にとっては不完全で、それをいくら分析しても意味がよく分からないところがあるということです。その理由は会計制度だけが問題ではなくて、国立大学法人制度そのものに起因する根の深い問題でもあります。これはかなりの難問ですが、統合報告書が出ることで改善できる可能性があるかもしれないとも感じます。というのも、東京大学の統合報告書の冒頭には、その国立大学法人会計について、退職給付引当金や減価償却費を通常の企業会計に倣って計上したらこうなりましたと示されているところがあり、ひとつの可能性を示していると思いました。それから、V.スクールの説明は、来年どうなのかちょっと分からないんですけれども、これこそ短期的な価値創造じゃなくて中長期的な価値創造としてこの統合報告書の中で成果を盛り込みたいと思っております。

 

地域や神戸の価値創造―「神戸から世界へ 過去から未来へ」

國部:それでは、最後の話題の「地域や神戸の価値創造」の話に移りたいと思うんですけれども、その点についてコメンテーターの先生方から何かご意見ありますか。

関西学院大学阪教授(以下、阪):一言だけ。インボルブという視点から、1ステークホルダーとして、昔のお向かいさんのよしみで、是非巻き込んでください!

大槻:私、高校時代に神戸が大好きになりまして、神戸大学に入りました。今、人生100年時代と言われています。そこで学び直しっていうことがあるんだと思っています。私の同僚がこの統合報告書を読んだ時に、なんて素敵な大学だろうと、ぜひここで学びたいと思いました、という感想くれたんですね。非常に嬉しかったですし、18歳の学生だけではなくて、全世代に向けて学びなおす場で、それをまた神戸でできたらいいなと思います。それに貢献する神大であってほしいなと思っています。

國部:ありがとうございます。それでは宮永さんお願いします。

宮永:(弊社は)京都の会社なんですよね。京都そのものに直接、貢献しているというよりも、グローバルに、常にイノベーションにこだわった革新的な企業と自負しながら、頑張っていることで、京都のブランド価値というのは上がってるのかなと。それはオムロンだけがやってるんじゃなくて、他の企業も。今は京都というのは非常にトラディショナルで伝統的な街であり、かつ極めてイノベーションが起こる革新的な都市という相反するユニークな面を合わせ持つというイメージを持ってますね。様々な人を呼び寄せる求心力の源泉となっているんですよね。その観点においても、神戸大学というのが大学としての価値だけではなくて、私も神戸に住んでますけども、いろんな意味で活性化する求心力の一つの源になっていただければ、住んでる者としても誇り高いなと思います。

國部:どうもありがとうございました。それを受けて武田先生の方から。

学長:いろいろあるんですけども、一つは国際港湾都市神戸にある神戸大学として3日前に、東京で記者会見を行いました。海の神戸大学のプロジェクト、海神プロジェクトを進めるんだと。練習船を持っている総合大学としての一つの責務だと思っております。そこで船員養成も含めて海洋政策を立案できるような人材、それから海洋に関するサイエンスを実施できる人材、そういうグローバル人材を育てていきたい。

それからもう一つは医療産業都市の中で様々な貢献をしていきたいと思っております。科学技術イノベーション研究科の中でバイオ関係のベンチャーがたくさん立ち上がっておりまして、その他の分野もこれから伸びてくると思っております。病院機能もポートアイランドに出来ましたので、そこを使った新たな研究開発ですね。特に手術用のロボット、民間企業と共同してアメリカの独占を崩すような貢献をしていきたいと思います。

先ほど、国立大学の三類型の話をしましたけども、地元密着型か特色型か世界で戦う型か、実は自己矛盾があるんですね。どれもみんなやってるわけですよ。東京大学だって神戸大学だって、地域貢献もやっている。分類としてそのどっかに手を挙げなさいということで、世界を目指すことがないと、おそらく神戸大学の研究者は全部逃げていってしまうと思います。そこは、やはり学長として決断しなければいけないところです。

だからといって、地域を無視するわけではございません。地域に貢献しつつ、そこで育った人間が社会へ飛び立つというコンセプトだと思います。尚且つ、選ぶ選択肢の一つにきちんと神戸が入ってくるということも必要だと思っております。先ほど地盤沈下という話がありましたが、兵庫県それから神戸市について、本日は市長がいらしていますが、いずれも人口流出のことで、やはり様々な問題を抱えているわけです。そういう産業の育成ということも含めて、大学と地方自治体が手を携えて連携していきたいと思っております。

國部:どうもありがとうございます。それでは、本日のダイアローグ(対話)には、久元神戸市長にご臨席頂いていますので、市長から少しご意見いただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。

久元神戸市長(以下、久元):みなさん、こんにちは。市長の久元喜造です。今日は、シンダイシンポ2019にお招きをいただきましてありがとうございました。日本で二番目の統合報告書を作られたということで、お慶びを申し上げたいと思います。

今、地域貢献が話題になったということで、神戸市も神戸の地域も、神戸大学には大変お世話になっております。2013年に包括連携協定を結んで、2018年度には、62もの地域連携プロジェクトを一緒にやっています。それから、優秀な人材も神戸市役所に送り込んで頂いてまして、3人のうちの2人の副市長が神戸大学出身ですし、また部局長は神戸大学出身の方がたくさんいます。ただ、今日お話を聞かせて頂いて、そういうレベルの繋がりよりも、もっともっと大きな視点と、もっともっと大きな覚悟をもって我々神戸市政も頑張らないといけないなという思いを持ちます。先ほど、阪先生から、耳の痛い話を聞きました。戦前、神戸は東京、大阪に次ぐ大都市であったわけですね。それがどうしてだったかというと、やっぱり港です。一昨年、神戸開港150年だったわけですけれども、開港50年の1918年の古い資料を見ましたら、それは、それはもう元気いっぱいであります。どうしてだったのか。やっぱり港が全てだったんですよね、戦前までの時代は。1960年代までは、港が貿易の役割だけではなくて、特に明治の初めは、あらゆる文物、それからスイーツとか食文化、料理、推理小説、ゴルフ、ジャズこういうものがみんな港を通じて入ってきたわけです。その頃の神戸は、日本最大の港として独占してたわけです。ところが、それから大きく時代が変わりました。神戸の大きな岐路は、1970年代だったと思うんです。国が神戸沖に空港を作ったらどうですか、ということを提案してきた時に、大きく神戸市民の議論が分かれた。1973年に、空港推進派と空港反対派の市長選挙になって、僅差で宮崎市長が勝利をして、神戸沖の空港構想が潰えました。もしもあの時に、空港推進派が勝っていたら、関西空港が神戸にできていたわけです。そういうことを考えた時に、もう歴史は戻せないわけですから、そのことを前提にして我々は神戸を発展させなきゃいけない。これは、なかなか覚悟が要ります。やっぱり、今、神戸はまた新たな価値を見出していかなければいけない。

今日、統合報告書の中に価値創造ということがありましたね。神戸大学が目指しておられる方向と神戸市政が今、格闘している方向性とが似ていると思うんです。同時に、価値っていうのは何かが降ってくるわけではないわけです。生み出していかないといけない、我々が。生み出していくための大きなアプローチは、優れた人材をどうやって神戸に集めるのかということです。今は、世界の大都市というのは、激しい競争をしています。何を巡って激しい競争をしているのかと言うと、人材獲得競争です。どれだけ優れた人材を自分のところに引っ張ってこられるのか、育成するのかということです。大変ささやかながら、神戸市もスタートアップの取り組み500 Startupsという我が国で初めての展開をしています。今年で四年目になります。その応募を見ると、今年は6割が海外からです。海外から応募してくれているわけです。ところが、今まで 500 Startupsで起業に成功した人たちの中で、神戸でビジネスを展開してくれている人はそんなにはいません。ですから、これに対して税金の無駄遣いではないかという批判が一部の経済界にはあります。しかし、私はそれで構わないと思っています。これからの大都市というのは、人材を自分の所に閉じ込めるというような都市に未来はないと思います。優れた人材が集まってきて、そこで学んで、そしてビジネスをスタートさせて世界に羽ばたいていくと。これは神戸大学から神戸に優れた人材を送り込んでもらいたいと思いますが、同時に神戸大学から優れた人材が世界に羽ばたいていくような、そういう価値をどのようにして神戸大学が創造し、我々も都市としての価値を創造できるのか、そこが問われているという気がいたします。

令和の時代というのは、間違いなくテクノロジーが進化していくわけですから、このテクノロジーというものをどうやったら人間の幸せにつなげることができるのか。テクノロジーに支配される、身近なところで言うとスマホの奴隷になるような人間のあり方ではなくて、どうやったらこのテクノロジーが人間の幸せにつながるのか。いろんな連携をやっておりますけれども、具体的な事例を少しだけお話しさせていただきます。

一つは、医療産業都市に対する神戸大学のさらなる貢献をお願いしたいということです。既に国際がん医療研究センターを作って頂いて、海外患者の受け入れ窓口も作って頂いています。また、医薬品の創造、或いは医療機器の開発、或いは手術用ロボットをすでにスタートさせていますけれども、こういう面も我々と一緒にやっていくということがあるんではないかなという事です。神戸の産業は、戦前からものづくり産業でした。次世代産業としてスタートしたのが、震災の後のこの医療産業でした。その次を見据えたとき、我々は水素の産業の利活用ではないかという風に思っています。そしてその次は何かなと言うと、間違いなく海洋産業だと思っています。神戸を海洋産業クラスターとして成長させていくというのが、これからも大きな課題です。元々、神戸には、海底資源探査、海洋工作物、海洋土木といったような企業があります。もちろん神戸大学には海事科学部があります。これを、神戸大学は海洋政策科学部ということで、文理融合という視点を入れながら再編されると聞いています。我々はスコットランドのアバディーンなどとも連携をし、経済界も巻き込んで、神戸の海洋産業クラスターの形成を目指しており、海洋エネルギーの利活用というのもこれに含まれるかもしれません。是非一緒にやらせていただきたいというのが、2番目です。

もう一つは、やはりスマートシティです。神戸は、市として、今ポートアイランドを一つの場所として、もう一つは六甲山上というものを一つの場所として、 ICT や5 Gなどを、或いはセンサー技術など活用した画期的なスマートシティを展開できないかなと考えています。今、藤沢に企業主導型のものがありますが、これをもっとアカデミアの世界と企業と市民が、内外の知恵を入れて全く新しいスマートシティを展開することができないか、これが一つです。

最後に、やはり環境との共生です。やはりものすごく暑くなっていますから、地球環境問題に対してローカルな立場から貢献できないか。もっと身近なところで言うと、とにかく神戸は京都よりはマシですが、やはり暑いです。暑くなってきています。なんとか、ヒートアイランド現象というものを、テクノロジーを使って、神戸大学の英知を使って、特に余っている水などを使いながら、もっとクールダウンさせる街?都市ということができないか。それから、神戸は非常に自然に恵まれた街です。ここは、東京と大阪と違うところです。3割ぐらいしか市街地がない。あとは里山とか六甲山とか山林です。しかし、神戸の自然というのは、近隣の都市もそうですけど、人が手を入れ続けないと維持できない宿命を持っているわけです。六甲山の麓にある神戸大学は、是非そういう意味で、自然の再生ということも是非お願いできればということになります。

いろいろとコラボできるところがあると思います。是非これを機会に、神戸大学がさらなる高みに登っていただき、多様な貢献を各方面で果たされます事をお祈り申し上げましてご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

國部:久元市長、大変ありがとうございました。最後に、神戸大学への期待を述べていただき、大変ありがたく思っております。私たちは、今日、神戸大学として初めての統合報告書シンポジウムを開催したわけですが、私自身もこのシンポジウムが始まる前には、想像していなかった気づきを与えていただきました。価値創造というのは、抽象的な概念ではあるんですけども、方向性を示す概念であることを改めて感じました。それは短期的な価値創造ではなくて、やはり中長期的な価値創造を目指すためのものでないといけません。そのために統合報告書ができたわけですから、その方向に向かって行く。今回は第1回目ですが、来年以降も第2回、第3回と続いていきますので、引き続きよろしくお願いしたいと思います。パネリストの皆様、聴衆の皆様、本日はどうもありがとうございました。