博士学位を取得された皆さん、ご家族の皆様、この度は誠におめでとうございます。神戸大学全構成員を代表しまして心からお祝いを申し上げます。
今期は課程博士 217名、論文博士13名の計230名が博士学位を取得されました。このうち留学生は29名と、約13パーセントを占めております。神戸大学は国立大学の三類型において「世界最高水準の教育研究」を行う大学に名乗りを上げるなど、教育研究において世界に開かれ、国外の大学?研究機関と競うグローバルな大学を目指しておりますが、留学生の方も含めて、博士学位授与者をこのように多数輩出できたことを大変嬉しく思います。
博士の学位は創造性、新規性そして論理性など総合的にまとめられた独自性のある学位論文を基本として評価、授与されるものです。皆さんは、日夜研究活動に没頭され、長年のご努力?ご苦労の甲斐あって、見事、厳しい学位審査に合格され、本日、神戸大学の学位を授与されることとなりました。これまでの皆さんの努力に、改めて敬意を表します。しかしながら、学位取得は、新たな可能性へ向けての第一歩でしかありません。研究を遂行し、また論文を作成するうえでの基本的な作法を学んだに過ぎません。これらは、新しい目標に向けての人生の出発点ともなるべきものです。それぞれの目標に向かって果敢にチャレンジしていただきたいと願っております。
さて、私たちは今、グローバル社会において様々な課題と向き合っています。本学をはじめ、日本では「グローバル化」を標榜していますが、イギリスのEUからの離脱を巡る混乱、統合を進めてきた欧州諸国の動揺、アメリカ合衆国大統領の自国利益を優先する言動、中東での長引く紛争、東アジア地区をめぐる関係国の様々な駆け引きなど、絶えず我が国を取り巻く世界情勢は変化しており、複眼的な視点を持たなければ世界の動きから取り残されかねません。地球温暖化に伴う異常気象や水資源管理の問題、原子力や再生可能エネルギーなどのエネルギーミックスの問題、周辺国を巻き込んだ内戦?紛争、宗教的な軋轢等々、どれひとつとっても関係各国の相互理解と協力が無ければ解決の糸口にたどり着くことは困難です。我々が大学で行っている教育研究が、これらの諸課題の解決にどう貢献できるのか常に問い続ける必要があると思います。
学問分野は深化するにつれて、その専門性が高くなり、ややもすると自分のおこなっている研究の立ち位置を見失うことがあります。専門性を振りかざすだけでは、先ほど申し上げたような世界が抱える複雑な問題には対処できません。神戸大学が唱えている「学際融合」、「文理融合」は古くて新しい言葉です。様々な要素が錯綜する複雑な問題に立ち向かうとき、専門の違う人間が協力すること、あるいは一人の人間の中に複眼的な発想を持つことが必要です。神戸大学もその115年を超える歴史と伝統を通じて、文系と理系のバランスの良い総合大学に発展してきました。本学のこの強みを活かし、あえて「文理融合」を標榜し、その理念を具現化するものとして、平成28年4月に「科学技術イノベーション研究科」を設立し、昨年4月には博士課程後期課程も設置しました。ここでは、自然科学系の研究で生まれた「種」を、社会科学系の知見を活用して社会実装まで持っていく教育?研究を展開しており、既にバイオ関係の大学発ベンチャーなど具体的な事例が動き始めています。将来的には、環境問題、医療問題などへの貢献が期待されています。これは、神戸大学創設以来の理念「学理と実際の調和」にも合致するものと考えています。
今日ここにおられる皆さんには、このような気風や伝統を有する神戸大学で博士の学位を取得され、高い専門力と実践力の双方を兼ね備えておられます。学長としては、これらに加えて「想像力」(イマジネーション)を磨いていただきたいと願っています。情報があふれる現代社会においては、それらを整理し、今後の展開を「想像する力」が必要になってきます。これは、日本語では同じ発音になってしまいますが「創造力」(クリエイティビティ)にもつながる能力です。今回が平成最後の博士学位記授与式となりますが、新たな年号のもとでも、是非ともグローバルな課題に挑戦者として挑み、本学で学ばれ培われた実力を遺憾なく発揮され、世界に貢献できる人材として活躍されますことを期待して私の式辞といたします。
平成31年3月25日
神戸大学長 武田 廣